きらり、きらり、
「ミナツさんはいらっしゃらないかと思ってました」
「お盆休みはずっと家にいます」
居留守を使っていたことをうっかり忘れて、つい真実を洩らしていた。
「帰省されないんですか?」
視線は合わせず、私から受け取った小さな紙をしまいながらの言葉は、恐らく挨拶の一環なのだろう。
声も掛けられないくせに毎日待ちわびて、会えたら会えたでこんな姿を晒す私が惨めでかわいそうに思えてきた。
「帰省されませんよー。何の予定もないし、ずーっとひとりぼっちです」
「俺も仕事だから似たようなものです」
小川さんの反応はいつもの笑顔だった。
そのおだやかさや優しさを好きになったはずなのに、いつでも変わらない態度の中に、彼の感情を感じることができない。
「全然似てません。私なんて観葉植物とかテレビとばっかり会話してるんですから。あー、人間と話したーい」
ゴールデンウィークの頃にはそんな生活さえ贅沢だと楽しんでいたはずなのに、今はただ寂しいだけだった。
叶わない恋のもどかしさや悔しさが、棘となって小川さんに向かう。
「わかりました。じゃあ、6時くらいに迎えに来ますね」
「…………は?」
予想だにしない反応に、全身の棘が一気に抜け落ちた。
「俺でよければ人間と話しましょう。そんな時間だから、ご飯食べるくらいしかできないけど。あと、仕事帰りだからオシャレなところも無理です。それでもいいですか?」
「……はい」
「じゃあ、またあとで。ありがとうございました」
軽く会釈して笑顔で帰っていく後ろ姿は何度も見た配達員さんと変わらず、今の事務的なやり取りが現実だと証明するものは何もなかった。
それでも窓から外を見ると、小川さんもこちらに向かって手を上げてからバイクを走らせた。
あの手には、きっと『中道』『中道』と私の名前がたくさん残っている。
完全に小川さんの姿が消えてから数分後、私はカーペットの上で身悶えて、テーブルに脚を思い切りぶつけた。
ものすごく痛い。
だけど、胸の中に広がるドキドキとした温かみが勝って、顔はにやけたままだった。
「お盆休みはずっと家にいます」
居留守を使っていたことをうっかり忘れて、つい真実を洩らしていた。
「帰省されないんですか?」
視線は合わせず、私から受け取った小さな紙をしまいながらの言葉は、恐らく挨拶の一環なのだろう。
声も掛けられないくせに毎日待ちわびて、会えたら会えたでこんな姿を晒す私が惨めでかわいそうに思えてきた。
「帰省されませんよー。何の予定もないし、ずーっとひとりぼっちです」
「俺も仕事だから似たようなものです」
小川さんの反応はいつもの笑顔だった。
そのおだやかさや優しさを好きになったはずなのに、いつでも変わらない態度の中に、彼の感情を感じることができない。
「全然似てません。私なんて観葉植物とかテレビとばっかり会話してるんですから。あー、人間と話したーい」
ゴールデンウィークの頃にはそんな生活さえ贅沢だと楽しんでいたはずなのに、今はただ寂しいだけだった。
叶わない恋のもどかしさや悔しさが、棘となって小川さんに向かう。
「わかりました。じゃあ、6時くらいに迎えに来ますね」
「…………は?」
予想だにしない反応に、全身の棘が一気に抜け落ちた。
「俺でよければ人間と話しましょう。そんな時間だから、ご飯食べるくらいしかできないけど。あと、仕事帰りだからオシャレなところも無理です。それでもいいですか?」
「……はい」
「じゃあ、またあとで。ありがとうございました」
軽く会釈して笑顔で帰っていく後ろ姿は何度も見た配達員さんと変わらず、今の事務的なやり取りが現実だと証明するものは何もなかった。
それでも窓から外を見ると、小川さんもこちらに向かって手を上げてからバイクを走らせた。
あの手には、きっと『中道』『中道』と私の名前がたくさん残っている。
完全に小川さんの姿が消えてから数分後、私はカーペットの上で身悶えて、テーブルに脚を思い切りぶつけた。
ものすごく痛い。
だけど、胸の中に広がるドキドキとした温かみが勝って、顔はにやけたままだった。