好きな人は策士な上司(『好きな人はご近所上司』スピンオフ)
『ごめんな、藤井。帰ってくるのは早くても日曜の夕方くらいになる』
心底申し訳なさそうな声に、慌てて答える。
「いえ! 仕事ですから」
午後十一時半過ぎ。
いつものように桔梗さんがかけてくれた電話。
桔梗さんはクリスマスに会えないことを、とても悔しそうにしてくれている。元々の予定ではクリスマスには戻れるはずだったのだけど、役員の日程や会議やらでスケジュールが変更になってしまい、クリスマス明けに戻ることになってしまったそうだ。札幌から東京本社に向かう最短の方法は飛行機しかない。東京から大阪、というように新幹線というわけにはいかない。無理矢理戻るにも限界がある。しかも運が悪いことに、戻れる日は日曜日。翌日から年末の挨拶回りもある桔梗さんは勿論休めないし、年末の休み前で支店自体も忙しくなる。
『藤井とクリスマス、過ごしたかったんだけどなぁ』
心底残念そうに言ってくれる、それだけで私は嬉しかった。
「その気持ちだけで十分です」
これは本心。桔梗さんの真っ直ぐな気持ちが本当に嬉しい。でもそこに、ほんの少しわき上がった寂しさを上手に隠す。寂しさを感じてしまう自分に驚きながら。
私を甘やかす、と宣言していたように、桔梗さんは私に対してとても甘い。私はそんなにか弱い女の子でもないし、精神的に脆くもないです、と何度言っただろう?
彼は過保護なくらいに私の心情に敏感だ。
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