私の最後の夏の思い出
 気づくと私はおばあちゃんの家の居間の隣の部屋に寝かされていた。自分が倒れたことはかろうじて覚えている。暑かったから、熱中症だろうか。自分はどうやってここまで戻って来たんだろう。そんな風に浮かんで来た疑問を考えていると、すっと襖が開かれておばあちゃんが入って来た。
「ゆりちゃん、起きたのね。熱中症よ。近所の瑞樹くんがゆりちゃん抱えてウロウロしていたから驚いたわよ。でもよかった。体に異常はないみたいよ。」
 おばあちゃんが話しているのを右から左に聞き流す。私の意識は、一つの名前、瑞樹くん、というところに集中していた。絶対に知っている名前。その名前の響きが、昔から耳の中に残っているように感じた。
「おばあちゃん、その、瑞樹くんっていう人は…?」
 そう聞くとおばあちゃんは隣の部屋を指差した。
「居間でおじいちゃんと話しているよ。挨拶して来たら?」
 そう言われたから、起き上がって隣の部屋に行く。そこにはおじいちゃんと話している、さっきの男の子の姿があった。瑞樹くん、と小さい声でさっきの名前を復唱すると、その子は振り返って笑顔を向けた。
「ゆりちゃん!目が覚めたんだね。よかった…」
「え、私の名前…」
 『ゆりちゃん』。その呼び方に違和感を感じた。今までおじいちゃんとおばあちゃんだけが私のことをそう呼ぶのに、そのイントネーションを初めて聞いたものだとは思えなかった。
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