私の最後の夏の思い出
ー1章ー
「余命、三ヶ月です」

私の主治医が躊躇いながらもそう冷たく言い放つ。
一瞬思考回路が停止した後、誰にも気づかれないようにそっとドアを閉めてから、そばにあるソファに腰をかけた。
ここは、都内有数の大学病院の待合室。

余命三ヶ月。脳では理解できたのに、心がその現実を拒もうとしていた。
先月の診察の後、医者に親を連れてくるように頼まれた時は、まさかこんなことを言われるとは思ってもいなかった。

三ヶ月……何ができるだろう。

ぼーっとこの先のことを考えていた脳は、ドア越しに聞こえて来たお母さんの泣き叫ぶ声にハッと現実に引き戻された。
ドアをもう一度だけそーっと開いて中をのぞいてみると、お母さんを支えながら静かに涙を流しているお父さんがいた。

当の私は、どこか他人のことのように考えていた。
いつかこの日が来るのではないかと心で構えていたが、いざそう告げられても、特に悲しいという気持ちはなかった。
むしろ、死ぬってどんな感じだろう、と呑気に物事を捉えていた。


私、藤崎優里香は、生まれた時から体が弱く、激しい運動などは禁じられていた。
毎日薬を飲み、月に一回検診に来れば大丈夫だと言われていた。
それでも私は、終わりが近づいてきていることをどこかで感じ取っていた。

それを感じ取ったのは確か、二週間ほど前。
いつものように友達と帰り道を歩いていたとき、急に膝がカクンとなり、地面に座り込んでしまった。
それに気づいた友達が手を貸してくれて、そのあとは特に何もないまま無事家についた。確かにその日から自分の体の様子がおかしかった。

でも、医者にも家族にも言わないで内緒にしていた。
言ったところで何も変わらないと、思っていたから。
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