Deal×Love
「お父様、分かっています」

溜め息出そう。
着物のせいで苦しいし、慣れていない化粧のせいか顔がむず痒いし、貴方は一々苛々させるし。


「失礼致します、お客様がお見えになりました」


襖の向こうから聞こえた女性の声に心臓が少し速くなる。

断ろうと思っているけれど、人生初めてのお見合いだ。
緊張しないわけはない。

父が「どうぞ」と返すと、仲居さんが襖を開けた。

私は開いた襖から出てくる人物を、緊張しながら待ち構える。



「お待たせして申し訳ございません」


テノールの声が響いた。
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