あけぞらのつき
「わたくしの知っている遠野の者たちは、当たり前に、夢を操っていたと記憶しているが」
「今の遠野家に、そんな特殊能力は無いよ」
遠野は自嘲気味に笑った。
「それにあったとしても、俺は対象外だ。夢を渡るのは女だけだと、幼い頃、刀自に聞いたことがある」
「そうか……」
「その刀自も、だいぶ昔に死んだ。刀自が生きていれば、お前たちの手を煩わせることもなかっただろうな」
古い映写機が、回転速度を落とし始めた。
やがて映像はホワイトアウトし、スクリーンは薄ぼんやりとした光だけを放った。
孤高の眠り姫は、夢さえも追いつけないほど、深い眠りに落ちたようだ。
映像の途切れるその一瞬、アキはスクリーンから目を逸らした。
「本体は、どこで見つかったと?」
「縁切り榎木の藪の中だ。意識もなく倒れているところを、発見された」
遠野は長い足を組み替えて、イライラとため息をついた。
「半年間のことは不明だ。本人も何があったのか覚えていないらしい。まあ、中身が入っていないんだ。問いかけに返事をしているだけでも、奇跡だろう」
「いなくなったときの、状況は?家出ではないと言っていたが」
「いなくなったのも、縁切り榎木の近くだ。その日は、町内会の清掃活動があったらしい。小野寺は母親とともに参加していたそうだ。加えてあんなところ、車が入れるような場所でもない。不審なものは見なかったと、参加者たちが証言したと聞いた」