あけぞらのつき
結末へ


***

遠野臨は、その光景を見ていた。ただ見ることしかできなかった。

ミサキに名を呼ばれたことで、影は本来の姿を取り戻したように見えた。だが、それは本当にミサキなのか。


ミサキは手の中の眼球に、目を落とした。



「あの時、死のうとした体が悪夢を見せたのか、悪夢を見たせいで死んだのか、わたしにはわからない。でもたかが、夢の話しだ」



ミサキは榎依にゆっくり近付いた。

榎依はケロイドに引きつれた顔を歪めて、ミサキを睨んだ。



「お前が生まれ変わった、ということで、成就にはならないか?」


「成……就……」



「そうだ。お前が解放してやらねば、アイツの友人は悪夢に捕らわれたまま、戻れないからな」


「成就など!目的は……」



「言ったろ?お前のエモノは、最初から見当違いだったと。ここはわたしのシアターだ。榎依。お前を滅して解放させることもできるのだぞ」


榎依は顔のケロイドを押さえて、後ずさった。


ミサキは、刺し貫かれた傷の残る手を掴んで、金属片の刺さった眼球を握らせた。



「成……就…」


「ああ」



「……。今回は……」


「うん」



「今回は、クチナシの巫女に免じてやる。だが、次はない」



榎依は、ミサキに手を握られたまま、涙をこぼした。

ミサキは榎依の手を握ったまま、花のように笑う。



「次はない、か。夢でよく聞くセリフだな。一つ覚えも芸がない」



「……」


「寂しくなったら、ここに来い。気が向けば、相手をしてやるよ。次も、その次も」


榎依は唇を噛んで、ミサキを見つめた。


涙にまみれたその表情は、慣れない笑顔を浮かべようとしているようだった。


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