死の代償
「わあった」

「はい?」

「もう、いいわ。なんだかあなたのお話し聞いてると人生がどんどんつまんなくなっていくみたい、運命ですべて決まっているなんて」

「そんなことありませんよ。運命で決まっているという見方はわたくしたちからの視点ですから。あなたたちには認識できない、つまり、あなたの人生はあなたが築いているわけです」

「でも、実際はそうさせられているんでしょ、運命で」

「そうではないのですがね、どうもこちらの言葉というのは不便ですねぇ、一度言葉として表現すると言葉が勝手にその意味に揺らぎが生じてしまう」

「それって文章になっていないわよ」

「表現できない表現という表現で表現している。

やはりこちらの言葉は真泥っこしくていやですね。

言葉が表現者を支配している感じです」

「何のことを言っているのよ!」

 訳の判らない言葉に、美雪は苛々し始めていた。

「ああ、すみません。どうもこちらの言葉が使い辛くて。

それで、人生についてでしたね……」

「だから、もういいってば、どうだって。それで、あなた死神さんなんでしょ」

「そうとも呼ばれています」

「だったら、はやくあたしを連れて行きなさいよ、その生命塊ってのに」

「?なぜです?」

「なぜって……」

 悪魔のぼんやりと認識できない顔に大きな疑問符が浮かび上がったような気がして、美雪は言葉に詰まった。

「だって、あたしは自殺したんでしょ。それで魂を取りにあなたが来たんじゃないの?」

「ですから、その、勝手に自殺されるのが困るんですってば」

「どういうことよ、それって。だいたいあなた何しに来たの?」

 もっともな質問だった。

「どーも、前置きが長くなったようですが、やっとそこに来てくれましたか」

 悪魔は、やれやれと軽く肩をすくめて言葉を区切った。

「もちろんあなたに自殺を止めていただくためです」

「はぁ?」

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