死の代償
「そもそも、困るのですよ、本当に。何の理由もなく簡単に自殺にはしるんですから」

 悪魔は、本当に困った声で、腕組みをしながら言った。

 うんうんと自分で、うなずいている。

「あのー、死神じゃない、悪魔さん?話が良く見えないんですけれど……あたしが死ぬと何か困るんですか?」

「困りません」

 悪魔はこれ以上はないと言うぐらいきっぱりと断言した。

「?」

「先程も言いました通り、あなたが死ぬ、つまりこちらの言葉で言うところの運命によって死ぬのなら、わたくしはまったく困らないのです」

 悪魔は、美雪がなにか言う前に、さらに続けた。

「ですが、今回のあなたのように突然なんの理由もなく自殺すると言うのは困るのです。

ああ、口に出さなくても判ります判ります。

つまりですね、運命では、あなたはここで死なないのです。しかも、突発的に自殺をするはずはなかったのです。

それを修正するために、わたくしはやってきたわけでして」

「運命で決まって無いことが起こるのってのは変じゃない?

それじゃあ、さっき言ってた偶然は無いっていうのは、嘘になるわけ?」

 悪魔が言葉を切った合間を縫って、美雪は現在最大の疑問をぶつけた。

「そう、それなんですよ。わたくしが困っているのは。

いえね、原因は判っているのです。

余りにも多くの運命を操作してきたせいで、こちらの次元の時流体がエントロピーの増大で熱力学的限界にきているからなのです」

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