2番目に君を、愛してる。

彼の話は、櫻井さんとの出逢いから始まった。


「俺の担当している事件の、加害者の娘が櫻井だった。その事件のことを詳しくは言えないが、彼女の父は事件をきっかけに自殺した。そして櫻井は天涯孤独になった。虚ろな目をして手首を何度も切り、精神的に追い詰められていた。当時、刑事に成り立ての俺もまだ青く、加害者家族であるはずの彼女に同情した。自分の担当している事件で感情が入りすぎ、櫻井の力になりたいと思った」


遠い目をした新藤さんの声は抑揚がなく、淡々としていた。


「どこか危うく脆い彼女の傍にずっと居たいと思った。今まで女性を愛したこともなかったし、どう接すれば良いか戸惑う俺を見て、櫻井は楽しそうに笑っていた。全てが上手くいっているように思った。けれど無事に櫻井は大学を卒業して働き始め、その就職先がーー俺の兄と同じであると聞いた時から、歯車は狂い出した」


「元々、兄貴は女好きで遊び半分で女に手を出しては飽きての繰り返しだった。最悪なことに気量が良く女性の扱いも心得ている兄の毒牙に、櫻井は夢中になり、2人は付き合い出した。無性に泣きたくなったよ。俺の好きな人は兄を選び、そしてすぐに捨てられるのだと。けれど予想以上に2人は長続きし、ようやく理解したんだ。俺の初恋の相手だと知り、俺の反応を楽しみながらーー掌で俺と彼女を転がしているのだと」


「それでも成すすべなく、指を咥えて見ていることしかできなかった。ーー屋上から兄貴が飛び降りたという知らせを受け、泣きじゃくる櫻井と、兄の亡き骸と対面した時、俺の頭にはある仮説が浮かんだ。兄の女癖を知り櫻井が兄貴を突き飛ばしたのだと。もしくは別れ話を切り出されて殺意が芽生えたのだと。しかしなっちゃんの兄貴である波木秋さんが屋上に居合わせ、俺の見解とは異なることを語った。周囲に聞き込みを行う内に波木さんも櫻井に思いを寄せていると知り、波木さんが嘘の証言をしているのだと疑った。櫻井の罪を軽くするために口裏を合わせているのだと」


お兄ちゃんはそんなことはしないよ…。
そう反論したい気持ちを抑えて話を聞く。


「笑うかな?俺は初恋の人を守りたいわけではなく、罪を償って欲しい一心で捜査を続けていたんだ。兄貴は女を庇って死ぬような奴ではないと、確信もしていたしね」


全然笑えない。
初恋の女性を罪人と決めつけてしまった新藤さんの胸の痛みはどれほどのものだったのだろう。

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