大江戸ロミオ&ジュリエット

玄丞とその娘、初音が居を構える青山緑町には、安芸国(あきのくに)の広島新田(しんでん)藩の御屋敷が隣接していた。

志鶴はかつて、その御屋敷にて先代の藩主の奥方様が武家の子女を相手に「御行儀見習」と称して開いていた手習所へ通っていた。

八丁堀から青山緑町へ向かう駕籠(かご)に揺られながら、志鶴はまだ年端も行かぬあの頃を、ぼんやりと思い起こしていた。

……そういえば、特に用があるようにも見えぬのに、なぜかまだ十代半ばでおられた兵部少輔(ひょうぶしょうゆう)さまが、再々見に来られておったな。

兵部少輔というのは、当代の藩主が公方(くぼう)(将軍)様より賜った官名である。

……おそらく、歳の離れた妹君である(たま)さまが御心配でござったのであろう。

碧姫は志鶴よりも二つ下で、身分の差にこだわらず姉のように慕ってくれた。
その碧姫は、先ごろ、周防国(すおうのくに)の徳山藩主である毛利(もうり) 志摩守(しまのかみ)様にお輿(こし)入れになった。

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