大江戸ロミオ&ジュリエット

にもかかわらず、此度(こたび)の久喜萬字屋の仮宅は「深川」だという。

深川木場で知られるこの地は、縦横に張り巡らされた掘割による水運に恵まれ、全国各地から材木だけでなく、米や塩なども集まってくるため、大名の蔵屋敷や商人の問屋が所狭しと軒を連ねていた。

きっと、とんでもない額の冥加金(営業税)が、見世から御公儀に渡ったに違いない、と町家ではもっぱらの噂だ。

だが、おいそれとは行けぬ「吉原の大見世」が、向こうからおいでなすったのだ。

しかも、仮宅中はなにかと不便をかけて、平生(へいぜい)のような「もてなし」もできぬからと、揚代(あげだい)(料金)を安くしている。(実は、一刻も早く見世を再建する金を荒稼ぎしたいだけなのだが。)

()にも角にも。

ここのところ、(くるわ)通いを夢見る男たちの頬が緩んで、浮かれに浮かれていた。

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