大江戸ロミオ&ジュリエット

◇北町小町の場◇


その夜、おせいが、
「御新造さん、若旦那さまがお呼びなんで」
と、志鶴(しづる)に申しに来た。

昨夜は案内してくれたが、今夜はそう云うとすっ、と下がって行った。

仕方なく、志鶴は一人で多聞(たもん)の部屋に向かう。

確か、中庭を挟んで反対側の奥であったな、と思いながら歩く。志鶴の部屋からは巽(南東)だ。
敷地全体から見ると子(北)の方角にあった竈のある土間の部屋からは、中庭を挟んでちょうど午(南)にあたる。

渡り廊下から見ると、同じような部屋がずらりと並んでいて少し迷ったが、なんとか多聞の部屋の前までたどり着いた。


志鶴は襖(ふすま)の前に正座して、

「……志鶴にてござりまする」

と、昨夜と同じく声をかけた。

「入れ」

凛とした声が返ってきた。

これも昨夜と同じだ。

志鶴は一度息を吸って、背筋を伸ばしてから、襖をすーっと開けた。

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