大江戸ロミオ&ジュリエット

◇敵の陣屋の場◇


松波の家では、だれも志鶴(しづる)に気安う話しかける者はおろか、挨拶一つする者もいなかった。

志鶴の世話を申しつけられているおせい(・・・)ですら、用件以外はなにもしゃべらなかった。
しかも、いつもなにを考えているのか皆目わからない、のっべりとした表情だった。

志鶴はこの家ではまるで、我が身がおらぬものとして扱われているのか、とやりきれない思いに駆られたが「致し方なきこと」と堪えた。


ただ……どうにも(こら)えられなかったのが「御飯」であった。

< 57 / 389 >

この作品をシェア

pagetop