大江戸ロミオ&ジュリエット

奉公人たちは各々(おのおの)で辻まで出て、屋台や棒手振(ぼてふ)り（行商人）から好きなお菜を買ってきて、屋敷で出されたものと共に食す。

江戸は男(おのこ)の町である。男の数がおなごの五、六倍はいる。

三代の公方様（徳川家光）による藩主たちへの「参勤交代」（大名が一年ごとに領地と江戸を往復すること）の御触れのために、諸国の藩から男たちがやって来ざるを得なくなったためだ。

なのに、「入り鉄砲と出女」の御触れによって、江戸へのおなごの出入りを厳しくしたものだから、ますます男ばかりになった。

ゆえに、江戸の男たちには一生涯独り身である者が少なくない。

すると、煮炊きのできぬそのような男たちに向けて、屋台や棒手振りたちがお菜を売り出した。

ちなみに、女房が「三行半(みくだりはん)」を亭主からもらわないと再嫁(さいか)できなかったのは、せっかく手に入れた女房を手放したくない「江戸の亭主」の執念が御公儀（江戸幕府）を動かしたからである。


また、お菜が気楽に手に入れられるのは、独り身の男だけではなく、子だくさんで忙しない長屋の女房連中にも受けた。

犇(ひしめ)き合うように並んだ長屋で煮炊きをしなくてもよいということは、竈(へっつい)も七輪も出番がなく火も出ぬから、火事がなにより怖い江戸の町にとっても好都合だった。