イジワル御曹司様に今宵も愛でられています
「濡れたなー」
「濡れましたね」
「それにすっかり、酔いも醒めた」
ずぶ濡れになったお互いを見て、また笑い声を上げる。
「部屋に帰ろうか、風邪を引く」
「……そうですね」
本当はもう少し、二人でいたい。そう思ったけど、私には口に出す勇気はまだ出ない。
今度は私が智明さんに手を引かれ、ホテルの方へと歩き出した。
「結月」
名前を呼ばれ、顔を上げた。
智明さんの顔から笑みは消え、ひどく真面目な眼差しが私を捕える。
「結月、俺は」
続く言葉を、息を詰めて待った。
「さっきの結月の言葉が氷見さんから俺を守るための嘘でも……嬉しかったよ」
智明さんの『嬉しい』の一言が、私の胸にじんわりと広がる。
そんなふうに言ってもらえて、私も『嬉しい』です、智明さん。
「でも俺は……欲張りになりすぎたのかもしれないな」
その後に智明さんがポツリとこぼした言葉は、私の耳には届いてはいなかった。