イジワル御曹司様に今宵も愛でられています
父の元へ戻り、羽根木さんからもらった名刺をしげしげと眺める。
「香月流家元、羽根木智明?」
家元ってことは、羽根木さんはお茶とかお華とか書道とか、そういう世界の人ってこと?
そんな由緒正しい家柄の人が、どうしてうちの父と? ますますわからない。
結局は羽根木さんも、父との関係をはっきりとは口にしないままだった。
「ねえ父さん、羽根木さんとの間に一体何があったの?」
眠ってたままの父が答えるわけもなく、再び静かになった病室には、無機質な医療機器の電子音だけが響く。
「まあ、また訊く機会はあるかな」
羽根木さんはまた来ると言っていたし、電話もくれると言っていた。
「あ、そうだ。電話! 忘れないようにしなくっちゃ」
早速スマホのアドレス帳に羽根木さんの番号を登録して、私は再び、パイプ椅子に腰を下ろした。