イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

 父の病院に着くまでの間になんとかいつもの自分を取り戻そうと試みたけど、もう無理だった。


 ビルとビルの間を軽やかに駆け抜けるシルバーのクーペ。窓の外に見える海は太陽の日差しにきらめき、そう遠くなく訪れる夏の気配を感じさせる。

 なりゆきとはいえ、いつもよりドレスアップした私。

 そして今にも肩先が触れそうな距離に、智明さんがいる。


 少し前までは考えられないような非日常の空間に、彼と二人きり。そう意識しただけで、胸が高鳴る。


 運転に集中している智明さんの隣で、そっと目を閉じた。

 海を見たせいかもしれない。脳裏に浮かんだのは、寄せては返すを繰り返す波打ち際に立つ自分だった。

 今まで気づかないふりをしていた気持ちが波となり、今にもこちら側に押し寄せてこようとしている。


 自分の気持ちを、認めたらダメだよ。

 ……智明さんは、遠い人だよ。

 そう考えたところで、意識は途切れた。

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