目覚めたら、社長と結婚してました
 結婚生活はその延長線上だった。時折見せてくれる怜二さんの優しい笑顔が大好きで、くっついたりキスもするし、それなりのスキンシップだってある。

 軽口を叩き合って、笑い合って幸せで。満たされていた。

 よかった、彼と結婚して。

 そんな思いで彼とマンションで一緒に住むようになって三日目の夜。私は自室で母とスカイプを楽しんでいた。

 フランスとは時差が八時間あり、こちらはもう深夜だ。母と近況報告などを話し、日付が変わりそうなところでそろそろ会話を終了させようとした。

 私は欠伸を噛み殺す。

『いつも言っているけれど、本当に怜二さんにはよろしくお伝えしておいてね』

「はいはい。そう何度もお礼ばかり言われても、怜二さんも耳にたこができちゃうんじゃない?」

『ふふ、そうね。でも本当にお世話になったから。それにしても柚花と怜二さんの子どもなら、きっと可愛いわよね。今から想像するだけで楽しみだわ』

「な、なに言ってるの!?」

 さらりと話題を振られ、母のなにげない言葉に私は大袈裟なくらい狼狽えた。対する母はパソコン画面の向こうで首を傾げている。

『気が早すぎたかしら? でも親としては次に楽しみにするのはそこでしょ』

「そうは言われても……」

 ぎこちなく小さく返すと母は目じりを下げて笑った。
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