目覚めたら、社長と結婚してました
「あいにく俺は、好きな女がどこにいても、誰の隣でも幸せにさえなってくれたらいい、なんて高尚な考えは持ち合わせていないんだ。どんなことがあっても自分の手で幸せにする。だから、お前は俺の隣で幸せになってたらいいんだよ」

 彼の言葉が引き金になって、ずっと堪えていた涙がついに溢れだす。頬に伝う涙が添えている怜二さんの手を濡らすが、彼は気にすることもなく私の目尻を指先で優しく撫でた。

 そのことがさらに涙腺を緩ませる。

「っ、なに、それ。なんで私が怜二さんと無理矢理結婚したみたいになってるんですか」

 責める口調なのに涙を流しながらだから、どうも声に迫力はない。怜二さんもムッとした顔になった。

「それはこっちの台詞だ。俺にここまでさせておいて、お前もどういう勘違いをしてるんだよ」

「だ、だって怜二さん。結婚に対してかなり冷めていたし、結婚相手が誰でも同じだった、みたいなことを聞いたから。それに私のことをどう思っているかちゃんと言ってくれたこともないし。好きとか、愛してるとかも……」

 本当はそういうところじゃない。けれど私は、しどろもどろに言い訳めいたものを口にする。

「今、言ってやっただろ」

「そう、かもしれませんが……」

 どう続けようか迷ったところで、怜二さんが目を閉じて軽く息を吐いた。

「言い損にさせるなよ」

 そう告げて私のおでこに自分の額を重ねると、彼と私との距離はお互いの吐息を感じるほど近くなった。
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