目覚めたら、社長と結婚してました
 不安だった。いつか彼から「いらない」って「もう必要ない」ってこの結婚生活に終止符を打たれるのが。

 私に拒否する権利はない。だからそういう事態になっても受け入れられるように、自分を戒めるために用意した。それがどれほど自分勝手なものだったのか考えもしないで。

「ごめん、なさい。助けてもらったのに、私全然いい奥さんになれなくて……」

 目の前に怜二さんの気配を感じるものの、胸が痛くて顔を上げられない。そのとき両肩を強く掴まれたかと思うと、顎に手を添えられ強引に上を向かされた。

「助けた? 馬鹿言うな。俺がそんな優しい男じゃないのを知ってるだろ。奪ったんだよ、お前の気持ちも無視して。誰にも渡したくなかったから」

 深い色を宿した瞳が至近距離でこちらをじっと見据える。切なそうに言われ、私は何度か口を動かしたが、すぐには声にならなかった。

「……っ、だって怜二さん、誰と結婚しても同じだったんでしょ? 私じゃなくても」

「違う。誰と結婚しても同じなのは俺じゃなくて柚花だろ」

 遮るように放たれた彼の発言に私は目を見開いて固まる。怜二さんはつらそうに顔を歪めて私の頬にそっと触れた。

「お前は俺じゃなくても、きっと相手が誰でも自分の力で幸せになっていた。現にそのつもりだったんだろ」

 否定することができず私は言葉を濁す。ただ目を逸らすことはしなかった。彼の唇がおもむろに動く。
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