目覚めたら、社長と結婚してました

【last piece of memory】

 来週に自分の誕生日を控え、怜二さんとあんなことがあってから二週間。今日、顔を出すかどうか、すごく迷った。

 先週は少し体調が悪いのもあって、バーには足を運べなかった。だから余計に気まずいのもあったけれど、どうしても今日を逃すわけにはいかない。

 初めて訪れたとき以上に緊張してバーのドアを開けた。怜二さんはめずらしく先に来ていて、いつも通りに本を読んでいる。

 ちらりとこちらを見て目が合ったけれど、すぐにその視線は戻された。傍らにあるスコッチの入ったグラスに口づける。

 島田さんもいて気さくに話しかけられ、近藤さんには先週来ていなかったことを心配された。ずっと通い詰めていたからな。

 私は事情を説明して席に着いた。すっかり定番の彼の隣に。

「怜二さん、これありがとうございました」

「ああ」

 リープリングを返すとその続きを渡される。これを読んだら次はいよいよ最終巻だ。

「怜二、来週末からまたドイツに出張なんだろ」

 近藤さんに話を振られ、怜二さんは読んでいた本を閉じる。どうやら例の共同プロジェクトについてのことで二週間ほど行くらしい。

「オクトーバーフェストの時期が微妙にずれてて残念ですね」

「残念って、遊びに行くわけじゃないんだぞ」

 私の軽口に怜二さんは気が重そうに返してきた。内心では緊張して投げかけた言葉だったから、彼の反応にホッとする。そして、その後もなにもなかったかのように振る舞えた。

 そもそも自分からなかったことにすると言ったんだ。二週間前のことは、どちらにとっても忘れた方がいい。
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