目覚めたら、社長と結婚してました
「すみません。そうですよね、結婚したのに……」

「お前は結婚する前から俺のことを名前で呼んでいたけどな。むしろ今になって役職呼びされると、どうも落ち着かない」

 私の考えを社長はあっという間に塗り替える。

「え。名前で呼んでたって、付き合ってからってことですか?」

 私の問いかけに、社長は表情を一転させ、口角をにっと上げた。

「それは名前で呼んだら教えてやる」

 まるで交換条件だ。はぐらかされたような気がして、私はふくれっ面になった。

「なんで普通に教えてくれないんですか」

「お前が素直に呼べるようにお膳立てしてやってんだろ」

「わー。社長の優しさが身に染みます」

 わざとらしい口調に社長は呆れた顔になった。

「呼ぶ気ないだろ」

「そ、そんなことありませんよ。……怜二、さん?」

 あれ? なんだか思ったよりもずっと恥ずかしい。その証拠に強がったものの、声は弱々しくぎこちない。

 伯母と話をする中で彼のことを名前で呼んだりしていたのに。本人を前にすると、こんなにも照れてしまうなんて。

 社長はなにも返してこない。静まり返った部屋に、心臓の音がやけに大きく聞こえる。そして彼の口がゆるやかに動いた。 

「……まぁ、及第点だな」

「名前呼ぶのに点数とかあります?」

 条件反射でツッコむ。緊張していた自分が馬鹿らしくて文句を言おうとしたが、声にはしなかった。言葉とは裏腹に社長が優しい表情でこちらを見ていたから。
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