Some Day ~夢に向かって~
文化祭の準備は順調に進んで行った。


ウチのクラスが学年で、ううん学内で1番いい雰囲気なんじゃないかって、私は勝手に思ってる。


そして今・・・私は先輩と一緒に塾からの帰り道。1度は手放してしまった大切な時間。そのまま失ってしまわなくて、本当によかった。


「いよいよ明日だなぁ。」


「はい。」


いろいろあったけど、明日から本番。


「うまくいくといいけどな。」


「大丈夫です。ライバルは多いですけど、絶対売り上げ1番になりましょう!」


なんの根拠もないけど、私には自信があった。


「頼もしいな、水木は。」


笑う先輩。


「試合の時に水木がいてくれたら、心強かったろうな。」


「そうですか?」


「ああ。ピッチャ-なんて、どんな試合でも、第1球を投げるまでは、心臓が口から飛び出るんじゃないかって思うくらい、緊張してるもんさ。」


へぇ、そうなんだ。常勝と言われてた、明協のエ-スとして、常に自信満々でマウンドに立ってるようにしか、私には見えなかったけど。


「ところでさ。」


「はい。」


「水木は学祭、誰かとまわる約束してる?」


「えっ?」


先輩からの思わぬ問いに、私は一瞬言葉に詰まる。特に約束はしてないけど、毎年由夏とまわってたから、今年もそうなるだろうとは思ってた。


「たぶん由夏とまわると思います。」


(なんで、特に誰とも約束してませんって、言わないの?私。)


あまりに正直な答えをした自分に、自分で呆れてしまったが、時すでに遅し。


「そっか、岩武とか。じゃ仕方ないな。」


(もう一押ししてくれないの?)


あっさり引く先輩に、私の心の叫びは届かない。


「先輩はどうするんですか?」


失望と後悔に染まる心を懸命に立て直しながら、私は聞いた。


「さぁ、どうするかな?塚原達とじゃ情けないし、あいつらだって、こんな時まで、先輩のお守りじゃ、たまらないだろう。唯でも誘うかな。」


(えっ、妹・・・さんですか?)


それもいかがなものでしょうかと、内心ツッコミを入れてしまう。といって、じゃ私とご一緒にどうですか、という一言はやっぱり言えない私・・・。


少しの沈黙が私達を包む。


「あのさ。」


先輩がその沈黙を破ったのは、そろそろ私の家が見えて来た頃だった。


「迷惑じゃなかったら、なんだけど・・・。」


そこで一瞬の間をおいた先輩は、驚愕の言葉を私に告げた。


「後夜祭の時は空けといてくれないかな?」


「えっ?」


「一緒に花火見よう。その時に・・・聞いて欲しいことがある。」


呆然と立ち尽くす私、またしても2人を包む沈黙・・・破ったのはやっぱり先輩だった。


「ダメ・・・かな?」


その先輩の言葉に、我に返った私は、慌ててブンブン首を横に振った。


「ダメじゃありません、喜んで!」


また「喜んで」が出ちゃった。そう言えば、私の得意技が「喜んで」なら先輩は「迷惑じゃなかったら」だな、なんてつまんないことを思ったのは、後で少し落ち着いてからだったけど。


「ありがとう、じゃ明日。おやすみ。」


「お、おやすみなさい。」


(それって・・・そういう意味だよね・・・。)


ホッとした笑顔を残して、走り出した先輩を私は、まだ呆然としたまま見送っていた。
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