Some Day ~夢に向かって~
私達が戻ると、ホクホク顔の加瀬くん達が近づいて来た。


「水木さん、岩武さん。いいよ、絶好調だよ。12時現在の集計でも飲食模擬店の中じゃ、ダントツトップ。」


「すごいじゃない。」


嬉しそうに言う長谷川さんに、由夏も笑顔で答える。


「メニュ-もいいけど、ウチには切り札があるから。」


「切り札?」


加瀬くんが指差す方には、ウエイタ-を務める先輩の姿が。


「先輩?」


「そう、なんたって甲子園優勝投手が接客してくれるんだぜ。ウチの生徒はもちろん、外部の客だって興味津々さ。」


そうかもしれないと思いながら、私はちょっと複雑な気持ちになる。


「男を寄せ集めたいなら、君たちに活躍してもらわなきゃならないけど、ウチはあくまで女子狙いだからね。女子はとにかくブランドに弱いから。」


得意そうに言う加瀬くん。


「午後は白鳥さんには、宣伝に練り歩いてもらうから。イケるぜ、文化祭の新記録だって狙える。」


「そうだね。」


盛り上がる実行委員2人がなんとなく嫌で、私は側を離れた。


(先輩・・・。)


お客さんの女の子達と、楽しそうに話してる先輩の姿が目に入る。この胸の中に生まれるモヤついたものは何なんだろ。


今の私はおかしい、そんなのは自覚してる。


「一緒に花火を見よう。その時に、聞いて欲しいことがある。」


昨日の夜の、あの先輩の言葉から、私の平常心は失われたままだ。


先輩が他の女子と楽しそうに、親しそうに話をしてる姿なんて、何度も見てきた。まして、今の先輩は模擬店の店員としての、仕事をしているだけなんだ。


なのに今、私はこれまでとは全く違った思いを、目の前の光景を見て、抱いてしまっている。


(もう先輩の彼女になれたつもりでいるのかな、私。)


あの言葉で期待するなって言う方が、無理だよね。でも先輩が私の期待通りの言葉をくれる保証なんてない。私少し、のぼせ上がってるのかも・・・。


みんなが忙しそうにしてる中、そんな物思いにふけってしまっていた私のおセンチな時間は、突然聞こえて来た賑やかな声で、吹き飛んでしまう。
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