Some Day ~夢に向かって~
文化祭があって、バタバタしちゃったのは仕方がないけど、気が付けば10月。定期試験まで2週間を切った。


受験生にとって、学校の定期試験ほど、厄介なものはないかもしれない。内申のことを考えれば、あんまり手は抜けないし、と言って受験対策の足しになるかというと、これまた微妙。なかなか間合いが難しい。


そんなことを考えながら、机に向かっていると、先輩からメールが入った。


『昨日はお疲れ。今日、予備校来るよな?』


『先輩もお疲れ様でした。はい、行きます。』


『わかった。じゃ、夜な。』


やり取りはこれだけだったけど、先輩からのメ-ルは私を落ち着かせてくれた。まずは勉強に集中して、そのあとで、先輩の話をキチンと聞こうと心の整理が出来たから。


そして今、私達は、授業が終わり、並んで歩いている。


「昨日はごめんな。」


「そんな、先輩が謝ることないじゃないですか。」


「そうなのかもしれないけど、やっぱり水木と一緒に花火見たかった。それにどさくさに紛れて、水木の手、握っちまったし。」


「えっ?」


「悪かったな。」


「そんなこと謝らないで下さい。嫌だったら、私、振りほどいてますから。」


照れ臭そうに言う先輩に思わず、私の口調は尖ってしまう。


(突然だったけど、嬉しかったんだよ、私。なのに照れ隠しなのかもしれないけど、そんな風に言われたら・・・ひどいよ。)


「すまん・・・。」


私の気持ちに気付いてくれたのか、そうじゃないのか、先輩は謝ってくれるが、なんとも気まずい空気が私達の間に流れてしまう。


予備校から私の家まで、歩いて10分。普段でもあっという間だと思ってるのに、今日は余計早く感じる。


(ところで話って、何なんですか?)


沈黙が続き、家が段々近づいて来るにつれ、私は思わずそう口にしてしまいそうになるけど、それじゃ、さすがに可愛げがないよね・・・。


「水木。」


遂に、先輩の足が止まった。先輩は引いていた自転車のスタンドを立てると、私に呼びかける。


「はい。」


振り向く私は、緊張を鎮めるように息をついた。


「実は・・・頼みがある。」


(頼み?)


私が予想していた、望んでいた言葉とはちょっと違うような・・・その違和感に戸惑っていた私は、次の先輩の言葉に耳を疑った。


「勉強・・・教えてくれないかな?」


「えっ?」


「君も受験生だ。人の面倒見てる暇なんか、ないことはわかってる。でも、水木しか頼める人がいないんだ。今度の定期試験まででいい、この通りだ。」


そう言って、頭を下げる先輩。でも私は、そのあまりに意外な先輩の言葉に、何も言えずに立ち尽くすだけだった・・・。
< 59 / 178 >

この作品をシェア

pagetop