Some Day ~夢に向かって~
今日は放課後から、ずっと水木と一緒にいた。図書室で待ち合わせて、隣り合わせで勉強して、その後予備校に移動。途中で夕飯代わりにハンバ-ガ-を買って、本当はせめて、店で食べたかったんだけど、時間がなかったから、予備校の自習室で一緒に食べた。


勉強していて、フッと横を見ると水木がいる。真剣にテキストに目を落としている彼女の横顔はゾクッとするくらい凛々しくて、そして可愛い。俺は平静を保つのに、必死だった。


そう言えば水木と一緒に食事をするのは、初めてだった。自分の分を当たり前のように支払おうとする彼女を抑えるのには苦労した。ようやく支払いを終え、店を出た時、水木は「すみません、ごちそうになっちゃって」と申し訳なさそうに言った。


そして、自習室でハンバ-ガ-をおいしそうに、嬉しそうに頬張る水木がたまらなく愛しくて、やっぱり可愛くて、俺は、初めての機会なのに、こんな所で、こんなものしか食べさせてあげられなかったことを後悔した。


野球選手というのは、本能的に雨を喜ぶ。練習や試合が中止になるからだ。だけど、俺はあの日の雨を恨んでいる。そして野球選手は縁起を担ぐ。1度ケチの付いた勝負に挑むことに俺は躊躇した。


そうか、俺はもう野球選手じゃなかったんだ。すべては言い訳だよな。


結局俺が選んだのは、直接的な告白ではなく、更に彼女との距離を縮めようとすることだった。だけど初日の成果は・・・。


「なぁ、水木。」


「はい。」


そして、予備校からの帰り道、俺は水木に言った。


「明日なんだけどさ。」


「はい。」


「よかったら、俺んちで勉強しないか?」


「えっ?」


「図書室じゃ、話出来る雰囲気じゃないから、何か聞きたいことがあっても聞けないじゃん。家庭教師みたいにピッタリくっついてくれとは言わないけど、やっぱりわかんないとこは聞きたいんだ。明日は予備校もないし、時間もたっぷり取れる。夜はちゃんと送って行くし、どうかな?」


俺の図に乗った頼みにあっけに取られる水木。でも俺は必死だったんだ。
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