Some Day ~夢に向かって~
「やっぱり松本先輩はカッコいい~。」


松本先輩の講演が終わると、私達は一回教室に戻って、そのまま解散、下校となった。由夏はもう興奮しっぱなしだ。


「よかったね、由夏。」


先輩は確かにカッコよかった。でも私はそれ以上に、先輩の話に感動していた。先輩の話は決して上手くはなかったけど、言いたいことは私には十分伝わって来た。


「そう言えば、花束渡した時、先輩、由夏になんか言ってたよね。なんて言われたの?」


「ありがとう、岩武さんって、言ってくれたの。チョ~感激~。」


そうか、名前で呼ばれたら、確かに感激するよね。でも誰が、松本先輩に由夏のこと、教えたんだろう。やっぱり白鳥先輩か、それともみどりさん?・・・。


それはともかく、由夏が元気になってよかった。教室で涙流すなんて、由夏らしくないから心配してたんだけど、やっぱり緊張してたんだな。


「悠。」


「うん?」


「私、やっぱり立候補してよかった。」


「松本先輩に名前呼ばれたんだもんね。」


「ずっと後悔してたんだ。」


「何を?」


「松本先輩に何も言わなかったこと。」


思いもよらない由夏の言葉に、私は思わず由夏の顔を見つめてしまう。


「コクって、どうにかなったとは思ってない。木本先輩に逆立ちしたって、勝てなかったのもわかってる。でもさ、松本先輩と2年間も一緒の学校に通って、ずっと憧れてて。なのに、ただの一度も話すこともできなくて、私の事になんか気付きもしないで、松本先輩は卒業しちゃった。コクって、あっさり振られたって、それでも松本先輩に少なくても、私という存在を知らしめることは出来た。それすらないって、あまりにも悔しかった、情けなかった。そう思ったのは先輩が卒業しちゃってからなんだけどね。」


「由夏・・・。」


「だから私は今日、とにかく無理やり、松本先輩の視界に入り込んで、それで満足。けじめがついたから、新しい恋を求めて、頑張る。とりあえずまずは、聡志の奴をぶっ飛ばしてからね。」


そう言って、一瞬笑みを見せた由夏は、すぐにまた真剣な表情を私に向ける


「だけど、悠には、私とおんなじ後悔をして欲しくない。私は悠が羨ましかった、憧れの人が帰って来て、今、隣の席に座ってるんだから。受験が大切なのはわかる、でも悠、このままでいいの?」


由夏の真っ直ぐの視線に耐えられなくて、私は思わず目を逸らしてしまう。由夏、あなたが逆立ちしても適わないって言った人を白鳥先輩は今も想い続けてるんだよ。


切なくて、涙があふれて来そうになった時だ。


「悠ちゃん。」


呼びかけられたその声に、私は驚いて振り向いた。
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