幼馴染みと、恋とか愛とか
「もうこのオフィスもお終いね」


思わずそんな台詞を言って、紫苑が不思議そうに首を傾げる。


「だって、紫苑の頭がおかしくなったみたいだから」


折角就職したのに…と嘆けば、彼は不機嫌そうに声を上げた。


「どうして俺の頭がおかしくなるんだよ」


自分は至って正常だと言い張り、私は「違うでしょ!」と反論しだす。


「今私に『嫁になれ』と言ったじゃない。幼馴染みにプロポーズじみた言葉を言うなんて、紫苑はどうかしてるよ」


一度や二度に限らず、三度目までも。
これが変になったと思わないでどう思えばいい?


私が驚きのあまり、紫苑の言葉を本気で捉えてないのが分かったらしく、彼はデスクに肘を付いて、大きな溜息を漏らした。



「あーのーなー」


間延びした声で言い、両手でデスクを押し付けるようにしながら立ち上がる。

そして、バリスタマシーンで食後のコーヒーを淹れようとしてる私の所に来て、「萌音」ともう一度名前を呼んだ。


「何?」


それ以上近付くなオーラを出しながら後ずさり。
紫苑は手も出さずに私を見つめ、妙過ぎるほどの神妙さで。


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