幼馴染みと、恋とか愛とか
「うわー、なんでそんな事思い出すのよ!」


思わず駆け出して近寄ろうとした。
でも、大きなデスクを視界に入れたと同時にビクン!と背筋が伸びきった。


「萌音?」


黒い革張りの回転椅子に座ってる紫苑が首を傾げる。
私が走り出そうとした瞬間、急に立ち止まってしまったからだと思う。



「……もう、昔のことなんて話さないで」


顔を伏せながら自分のデスクに向かいだす。
足先を前に進めながら膝がカクカクと鳴ってるのが分かった。


私が急にトーンダウンしたのを紫苑はきっと不思議に思ってる。
だけど何も聞いてくることもなく、「まあそうだな」と普通な感じで言い捨てた。


社長室には重苦しい空気が漂ってる様な気分がする。
だけど、それは私の気持ちが沈んでる所為だというのも知ってる。


(昔から紫苑は救世主だと思えと言われてきたけど……)


いつも願うと仕様がなく腰を上げてた紫苑を思い出し、きゅっ…と胸が狭まってくる。

一番助けて欲しかった時にその姿を思い出すと、何も言えなかったな…と悔やんだ。


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