幼馴染みと、恋とか愛とか
(それなのにカウンターへ連れて行って、あんな強めなカクテルを飲まそうとするなんて)


萌音は手が出せずに弱ってたじゃないか。
彼女のことが気になるならちゃんと表情を汲んでやれよ。


そう思ったからこそ余計なお世話をしてやった。
あの時も苦々しい顔つきをされたが、萌音はホッとしてたみたいだった。




「紫苑…」


オフィスの集まりの場なのに不安そうに俺の名前を呼ぶ声に胸がきゅっと狭まった。
幼い頃のままの表情でいる萌音が不意に可愛くも見えたんだ。



(どうかしてるな、俺は)


あれ以来、なるべく萌音には近付かないでおこうと意識してたのに、まさか、こんな弁当を作って貰うようにもなるとは思わなかった。



(それでどうしたいんだ、俺)


付き合っちゃうかと萌音に言ったり、俺の女になれぱ?と言ったり。


(萌音からしたら、とち狂ったとしか思えないだろ)


幼馴染みとして育ったんだから。
兄妹として見ろと言われ続けてきたんだから。



(そうだよ)


兄として妹の萌音を守りたいし助けたい。
そうするのが義務のように言われ続けてきたんだ。

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