わたしと専務のナイショの話
「お前、高所恐怖症だったな。
 授業中、屋上上がったときも、ぎゃあぎゃあ言ってたし」

 京平が担当している地学の授業のとき、昼間の月を見に、みんなで屋上に上がった。

 意外にはっきりと見える、丸く白い月を指差しながら、京平は月の話や惑星の話を語っていた。

 あのときは格好良く見えたんだがな……。

 いや、今の方が落ち着きを増して、格好良くなっているのだが。

 教師時代より、更に言うことが横暴になってるからな、と思っていると、

「そういえば、何故、お前が採用されたのかわかったぞ」
と京平が言ってきた。

 いや、何故、採用されたのかと疑問に思ってた時点で、貴方は、私がこの会社や職種に向いてない、と思ってたわけですよね~とのぞみは思う。

「昨今、日本人も押しが強くなってな。

 重役連中は、昔の人間ばかりだから、その間に挟まるように面接したお前のまったく押しのない、ぼんやり加減にホッとしたらしいぞ。

 ひとりはこういうのも居るだろうって」

 そ、そうだったのか……。

「ちなみに、俺に選択権があったら、お前は取らん」

 ……ですよね、と思いながら、失礼しましたーと部屋を出ると、また、祐人が居た。

 いや、此処に居て当たり前の人なのだが、さっきのこともあり、つい、ビクビクしてしまう。
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