わたしと専務のナイショの話
 


「のぞみ、今日こそ新婚初夜だぞ」
とリビングで夜景を背に腕を組んだ京平が言ってきた。

「いや、あの~、初夜ではなくないですか?」
とのぞみが言うと、

「莫迦め。
 二人の初めての夜と書いて、初夜だ」
と言ってくる。

 いや、少なくとも、『二人の』は何処にもない気がするんですが……と思いながら、のぞみがじりじりと京平から後退すると、京平はじりじりと前に出てくる。

 いやあの……、なんとなく怖いんで……と思いながら、のぞみが更に後ずさったとき、京平が言った。

「ともかく、今まで待ったんだ。
 今日は絶対――っ」

 そう京平が言いかけたとき、京平のスマホが鳴った。

「……専務、鳴ってます」

「嫌だ」

「出てください」

「嫌だ。
 会社からのような予感がする」

「そんな気がしますね、出てください」

「お前、俺をこの家から追い出したいのか!」

「いや、一応、私、貴方の秘書なんで」
と言うと、

「……わかったよ」
と言って、渋々、京平は電話に出た。
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