世界で一番優しい嘘〜短編集〜
「ああ、本当、綺麗だな海は」
イアンがそう言う。
綺麗?
私には黒と白しか存在しない。
海がどんな色でどう美しく見えるとしても、私にはそれは見えない。
私が俯いていると、イアンは車の後部席から、ノートを持ってきた。
・・・ノート、、?
じゃないわ、日記・・・?
あの子の・・・日記?
「それ、何よ」
「・・・あの子の、日記だよ、シャーロット」
あの子が、あの子が、逝ってしまう前、あの子はずっと体調を崩していたから、日記なんて書いてるはずがない。
それなのに何・・・?
イアンは私に日記を渡す。
「お前あてだよ」
「え?」
そして、私は日記を開き始める。
その中には、あの子の、想いが。
あの子の夢が。
全てが詰まっていた。
それはまるで、日記と言うよりは、まるであの子は死ぬことを知っていたかのような、手紙のような日記だった。
「シャーロット。
あの子はお前に伝えたかったんだよ」
「・・・・・・」
その日記・・・は、自らが死を悟ったかのように6月5日から手紙に代わっていた。
ただただ、海の音だけが私たちの間に響いた。