世界で一番優しい嘘〜短編集〜

「ああ、本当、綺麗だな海は」

イアンがそう言う。

綺麗?

私には黒と白しか存在しない。

海がどんな色でどう美しく見えるとしても、私にはそれは見えない。

私が俯いていると、イアンは車の後部席から、ノートを持ってきた。

・・・ノート、、?

じゃないわ、日記・・・?

あの子の・・・日記?

「それ、何よ」

「・・・あの子の、日記だよ、シャーロット」

あの子が、あの子が、逝ってしまう前、あの子はずっと体調を崩していたから、日記なんて書いてるはずがない。

それなのに何・・・?

イアンは私に日記を渡す。

「お前あてだよ」

「え?」

そして、私は日記を開き始める。

その中には、あの子の、想いが。

あの子の夢が。

全てが詰まっていた。

それはまるで、日記と言うよりは、まるであの子は死ぬことを知っていたかのような、手紙のような日記だった。

「シャーロット。

あの子はお前に伝えたかったんだよ」

「・・・・・・」

その日記・・・は、自らが死を悟ったかのように6月5日から手紙に代わっていた。

ただただ、海の音だけが私たちの間に響いた。
< 7 / 28 >

この作品をシェア

pagetop