彼の隣で乾杯を
仲居さんに案内された部屋は露天風呂付の離れの特別室で専用のお庭もついている。お庭にはお茶室のような建物があり、そこで夕食を頂くことになっているのだという。

今いる広々した洋間には大きなソファーセットが置いてあり部屋の隅にはカウンターバーが。その隣は広々とした和室で目の前には木立と庭園が広がり、窓側の広縁は畳敷きで一段高くなっており小型のこたつがセットされている。お風呂上りにそこで夜空を見ながらお酒を飲んだらさぞかし気分がいいだろうと思う。

大きな引き戸の向こうには大きなベッドが二台並んだ寝室。もう一つの引き戸を開けると、大きな洗面台とジャグジー付きのバスルームがあってさらにその向こうに石造りの露天風呂がある。

大人が4人くらいは入れそうな大きなお風呂。
和洋が入り混じったシックな色合いの高級感いっぱいの素敵なお部屋で、一泊一体いくらだろうなんて下世話なことも頭をよぎる。

「すごいわ。やっぱり副社長ってすごい所を知ってるのね。早希も来たことあるの?」

「ない、ない。ここは私も初めてなの。すっごいわね」
早希も周りをキョロキョロと見回している。

「副社長夫人になっても一緒に居酒屋に行ってよ」

「当たり前でしょ。私は今まで通り赤提灯だって、立ち飲み屋だって由衣子と行くつもりだしー」

それは副社長が許せばの話だけどねと心の中で返事をすると、「あー」と早希が変な声を出した。

「でも高橋が心配するようなお店には由衣子を連れて行けないかー」
「ナニそれ。あいつはそんなのどこも心配しないでしょ」
心配するのは副社長の方だ。

「知らないのは由衣子ばかりなりーー」
妙な言い回しに笑いがこみ上げる。高橋はそんな心配しないし。

それにしても高級なお部屋だ。副社長の早希への溺愛っぷりが目に浮かぶ。

あの男は自分の婚約者を喜ばせるためならどんな時間も手間ももちろんお金も厭わないだろう。最近は言葉攻めもすごいらしいし。
でも、初めから言葉で愛情を表現していたなら早希だって逃げ出したりしなかっただろうに。
ま、今は幸せそうだからいいんだけど。

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