彼の隣で乾杯を
「佐本さん、じゃあなくて高橋さん。仕事はどうするつもりなの?」

涙がおさまった後で副社長が気になっていたであろうことを聞いてきた。

「続けますよ、もちろん」

「それは、この会社でってことでいいのかな?」

副社長の視線がちらりと良樹に移り、すぐに私に戻ってきた。

「良樹が本社に戻ってくるのであればこのままここで働き続けたいのですが、今のように本社の所属でありながら長期出張でこちらになかなか戻って来られないのであれば、別居婚は嫌なので私がここを退社して良樹より先にTHコーポレーションに就職しようかと」

うん、と副社長は頷いた。
「君は支社に異動希望を出すのかと思っていたよ」

「私も二日前まではそれを考えていたんですが、プロポーズしてもらい考えが変わりました。家族は離れるべきじゃない。でもこのアクロスでは夫婦は同じ部署には配属されないのがルールですよね」

「そうだね」

「だからアクロスを辞めようと思います。私は良樹と仕事がしてみたい、同じプロジェクトで意見を出し合い、協力して何かを成し遂げたいんです」

それはこの会社にいたのでは叶わない。
ならば経営者サイドになる良樹の実家の会社に勤めた方がいいと思ったのだ。

幸い、高橋社長も麻由子さんも賛成してくれたし、なによりあの夜に良樹が提案してきたビジネスプランに興味がわいた。
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