彼の隣で乾杯を
「この人私にプロポーズする時、結婚とビジネスを絡めてきたんです。初めは腹が立って何も聞かなかったんですけど、後で聞いたらとっても魅力的な話だったので」

思い出しても笑みがこぼれそうになる。
新規事業の立ち上げ。

それもここと契約しているあの企業に割り込みをかける形での参入を計画している。
ターゲットはもちろんあの会社だ。

「ああ、やっぱり興味を持っちゃったか。常務の言う通りだったな」

「康史さん、常務って?」

副社長の口からタヌキの名前が出て早希が素早く反応を示した。

「ああ、その、なんだ、ちょっとばかり許しがたい経営者のいる会社があってね、今回はお灸をすえるより徹底的にやった方が良いと常務のアドバイスをもらって」

「タヌキのアドバイス?どこの企業ですか。許しがたい経営者って何をしたんです?」

早希の食いつきがすごい。
早希の暴走を防ぐために箝口令が敷かれキネックス社の息子、娘に関しての件は誰も早希の耳には何も入れていない。

「ええーと、まあその件は昼休みが終わったら直接常務に聞いてみるといいよ。それより今は高橋夫妻の話だろ?」

「そうだわ。由衣子が会社を辞めて引っ越しちゃうってことなのよね?私の実家のすぐそばではあるけど、東京にいる私とは離れちゃう」

早希の目がまたうるうると潤み始める。
今度は私より先に副社長が早希の肩を抱いた。

「まだすぐには行かないから。引継ぎもあるし、ここでの仕事をきちんと終わらせないといけないから当分こっちにいるよ?」
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