彼の隣で乾杯を
良樹のTHとのプロジェクトはまだ完全に終わらせることができない状況になっていた。
想像以上に業績が良くて離れられないらしいのは仕方がないかもしれない。
良樹もゆくゆくはここを辞めてTHコーポレーションの後継者としてあちらに就職することになっているからそれ自体は悪いことではない。

最長3ヶ月で戻るつもりだった出張がそうはいかなくなりもう半年に伸びている。
結局、アクロス本社からの長期出張は出向になり、今後タイミングを見て良樹はアクロスを退職しTHコーポレーションに就職する流れになるのだそう。

そんな良樹の中で問題だったのは私のこと。

イタリア支社への転勤話も今までの私なら即了解していただろうし、私の生きる目的のようになっていたアクロスでの仕事を取り上げて、いずれTHに戻る自分の元に連れて来ていいのかと葛藤していたらしい。

それであのプレゼンだったわけなんだけど。
後で見せてもらったあれには自分と結婚して支社に異動した場合、THに転職した場合、このままアクロス本社に残った場合の仕事のプランが示されていた。

そこまで私が仕事に執着していると思われていたなんてと驚き半分、そうかもねと納得半分。

「天涯孤独の身の上だから生活をしていく上で確かに仕事は大事だけど、良樹より大事なものはないよ?仕事なら贅沢言わなければどこでもできるけど、高橋良樹は一人だけだもの」

そう言うと彼は困ったような顔をして私をギュッと抱きしめた。

「絶対に由衣子を幸せにするから」

そう言った彼の声が少しだけ震えていたことに気が付いて泣いてしまったのは私だ。
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