彼の隣で乾杯を
タヌキはなぜか避けてある4つには手を触れず、山の中にあった鈴の形をした小型のカステラの袋を取りだすと封をあけもぐもぐと頬張り始めた。

「高橋くん、もぐもぐ、例のプロジェクトなんだけどね、もぐもぐ、副社長のプランどう思う?」

言葉の中にもぐもぐが入っているのはどうかと思うが、タヌキの部下しかいない室内の昼休みのひと時なのだから許される範囲だろう。

「今までにないかなり強引な手法ではないかと。このままでは支社のプロジェクトメンバーからも同意を得られるかどうか」
率直に思ったことを言わせてもらうとタヌキも頷いた。

「そうだよねー、もぐもぐ」

傍らにあったコーヒーを口に運んでまた話し出す。
「加絵ちゃんのコーヒーも美味しいけど、やっぱりまだ早希ちゃんには敵わないんだよねー」

タヌキはカステラをやめて揚げせんべいに手を伸ばした。

「で、高橋くん的に支社の中でネックになるのは誰だと思う?バリンボリン」

合いの手がせんべいの音に変わる。
「係長の鈴川さんあたりは噛みついてきそうですね。THコーポレーションでは越後さんとか」

「うん、僕もそう思うよー。あ、美子ちゃーんお茶淹れるのなら僕のもついでにお願いしてもいい?出がらしでいいからさあ」

タヌキはちょうど湯飲みを持って立ち上がった原田女史に声をかけている。原田女史はいいですよと指でオッケーマークを作って出て行った。

「じゃあそう言うわけで高橋くん、明日からドイツに行ってきて」

はあ?
また勝手なことを言いだしやがった、このタヌキ。
なにがそう言うわけだ。

「明日からですか」

「そう。行けるよね」
そう言ってニヤニヤとしている。

副社長の新しいプロジェクトチームに参加している俺は2週間後から県外の地方都市にある支社に長期出張が決まっている。俺がこのところ今までの仕事の引継ぎやプロジェクトの企画でかなり忙しくしているのを一番よくわかっているはずなのに。

これは俺に対するタヌキからの挑戦状だ、たぶん。
・・・忙しい俺をからかってるだけの可能性もある・・・。
< 220 / 230 >

この作品をシェア

pagetop