彼の隣で乾杯を
「ドイツには何が?」

「ちゅるん、業種は違うんだけど、明後日から始まるスマートエネルギーのちゅるっ展示会にちゅちゅ行ってきて。斬新なプレゼンの仕方をするちゅる企業がずずっあるらしいよ。どんな手法にすれば反対する社員を抑えこめるかちゅー参考になるだろうからちゅぴっ見ておいで」

間々のスティックタイプのこんにゃくゼリーを吸い込む音が気になって話に集中するのが大変だったがタヌキの言いたいことはわかった。
問題は明日出発するために今やっている仕事をどうするかということだ。

今見ている報告書など誰かに代わってもらうことは可能だが、出張前に片付けておきたいものや支社への根回しなどはどうするか。代わりと言っても把握しているのが俺一人だけという現状じゃあ誰かに頼むわけにもいかないーーー

「高橋くん行けない?もしかして行けないの?まさかそんな行け…」

「いえ、残務処理を考えていただけです。行きます」

そんなこともできないのと挑発的な言い方をされてたまるかと思わず即答した。
タヌキに弱みを見せたくない俺は頭の中でどうするか考える。

しかめっ面の俺にタヌキがふふふと悪い笑顔を見せてきた。
「ね、それ押し付けちゃえば?副社長に」

は?
予想外の言葉に一瞬思考がストップした。

「大体ねぇ、こんな突貫工事みたいなタイトなスケジュールになったのは副社長のせいだし、このプロジェクトに異常に拘ってるのも副社長だし。おまけにその前に手掛けたイタリアの企業との大型契約、あれ契約はしたけど、そのあとの業務は社長に押し付けたから結局社長直轄のチームが尻拭いさせられてるっていうし。そもそも僕の早希ちゃんがいなくなっちゃったのだって副社長のせいだし」

一つ一つ言いながら腹が立ってきたのかタヌキはぷうっと頬を膨らませた。

「あの子仕事は出来るようになってきたけど、まだまだなんだよ。もうちょっと周りに目を向けるようにならないと」
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