彼の隣で乾杯を
そんなトラウマを抱えた私を癒してくれるのは早希と高橋の存在だ。
この会社に入ってからできた友人である同期の二人は、酔って漏らした本音を受け止めてくれ、事あるごとに側にいてくれる。

昨夜の高橋の行動もその一つ。
彼曰く「由衣子は信じられないくらいの泣き虫」らしい。

高橋が言うほど私は自分ではそう弱い人間だとは思ってない。
まあ、少しばかり泣き虫ではあるけど。
過去のトラウマからか自分の親しい人が自分の元を去っていくことに人より強く淋しく感じるだけ。

私が辛いとき、絶妙なタイミングで現れてはハグして背中をさすってくれる。

ここまで言うと私たちが特別な関係みたいだけど、少し違う。
高橋の中に私に対する恋愛感情はないのだ。

友人が慈しみ慰める、もしくは兄のような感情なのかもしれない。
だから、全く手を出されない。
一緒に一晩過ごしても。
寝顔を晒してもだ。

私の方はいつの間にか高橋のことが好きになってしまったというのにーーー

そして私の心の支えの片翼である早希がいなくなってしまった。
その原因の一端は自分にある。


早希の状況が知りたい。
いつも支えてもらっていたのにこんな時に彼女の支えになれないなんて。
もどかしい、歯がゆい、焦燥感と罪悪感がごっちゃになって自分自身を責め立てる。

親指の爪が肌に食い込むほど両手握りしめながら部長室に向かった。
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