彼の隣で乾杯を
「事情はわかりました。私が現地で単独行動することもあるということですね。現地サポートスタッフはいるんでしょうか?」

「薔薇姫は自信ない?」

「いえ。ただ正直に言ってしまうと、イタリア語がというよりもイタリア国内の法務関係がちょっと。現地のイタリア人の独特な言い回しに気をとられて現場の判断が遅れるのはどうかと少し気になりまして」

「法律用語が理解できてイタリア文化に詳しい現地の助手が欲しい?」

「できれば」

「大丈夫、現地にサポートスタッフがいるはずだから」

「ありがとうございます」

本当は異国の地で小林主任と二人きりで一週間も過ごすことに不安があるからなんだけど。
たぶん、主任は気が付いただろう。私のイタリア語には全く問題はない。もちろん法律関係もだ。

エディーやそのご両親との会話も全てイタリア語でしている。

少しだけ気が咎めるけど、今回はイタリア支社設立や新規契約業務が絡んでいる。法律などに関しては特に気になるところだろうし、この先のイタリア国内での新規開拓事業のことを考えると致し方無いはずだ。

主任が苦笑したように見えたのは一瞬のこと。
「残ったスタッフは協力して乗り切ってくれ。社長の目に留まるチャンスだぞ」
主任の一言に何人かの瞳が輝く。

私のやる気は下がっているけれどチームの士気は上がっている。
チームリーダーの主任とサブの私が不在になる時にどれだけ成果を残せるか、直接社長と話をすることができるチャンスが巡ってきたのだ。


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