彼の隣で乾杯を


今夜は我が家のダイニングに高橋がいる。
宅飲みの約束をしたのだ。
スーツを脱いで自分で持ち込んだTシャツとスエットパンツに着替えて完全なリラックスモードだ。

「不眠不休ってああいうこというのかな。おかげで同じチームの俺まで休めないし」
鬼のように働く副社長に巻き込まれて高橋も馬車馬のように働かされているのだと言う。

あれから副社長は休みも取らず毎日残業して副社長業務と同時に国内向けの新規プロジェクトを進めているらしい。

高橋はというと私の作った大盛りのカツ丼をかきこみながら文句を言っているけど、楽しそうにも見える。
久しぶりに会う彼は今日も相変わらずイイ男で彼がそばにいるだけで私の心は穏やかな凪になり満たされる。

私は今日の昼からご機嫌だった。
昼休みに社食に行くと、ちょうど高橋が出てくるところですれ違いざまに耳打ちされたのだ。
「今夜行く、メシとアルコール頼む」と。

驚いて振り返ったけど、何事もなかったようにスタスタと他のスタッフとエレベーターホールに向かって歩いていく高橋の背中しか見えなかった。

うっわ。何これ、秘密の社内恋愛みたいじゃない?高橋は単に周りから誤解されないようにこっそりと伝えただけなのに私だけドキドキする。

恋愛経験少なめの私にはくらくらしそうなシチュエーション。
知らなかったけど、私って結構乙女だったみたい。
しばらく動悸のようなドキドキが収まらなかったのだから。
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