ストロベリームーン


 シャッター音が連続して鳴る。

 まるで自分がプロのモデルになったようで緊張が照れに変わる。

 が、別の緊張が増す。

 写真を撮る動作って男らしい動作だと世那は思う。

 スマホとかじゃなくてこんなふうな本格的なカメラでだが。

 他にもネクタイを緩めるとか車をバックする時とかあるが、カメラはこれらとは違ったいやらしさがある。

 レンズの向こう側からこっちをじっと見ているのだ。

 正々堂々とする覗きみたいなものだ。

 女の小春が男らしい動作をするのを見るのはなんだか落ち着かない。

 世那の緊張をほぐすためか、小春はしゃべり続ける。

 仕事でではあるが日本国内から海外と小春はいろんなところに行っていた。

 高校の修学旅行でシンガポールに行っただけの世那とは大違いで、小春がとても大人に見えた。

 シャッター音にも馴れ小春の話に笑う余裕も出てくる。

「やっと借りてきた猫じゃなくなったね」

 小春がカメラから顔を覗かせた。

 その小春を見て世那の胸がニャンと鳴いた。

 小春はずっと世那を見ていたかもしれないが、小春の顔はずっとカメラに隠れていたのだ。

 不意打ちを突かれた。

「小春って付き合っている人とかいないの?」

 勢いに任せて初の呼び捨て。

 と、いきなり確信に迫る質問。

 気が動転していないとできない組み合わせだ。

 だが言ってすぐに後悔する。

 話の流れからいって変じゃないかこの質問。

 変だよね、変だ、どうしよう。

 小春も絶対変だと思っているはず。

「今はいない」

 短く小春が答える。

「前に付き合っていた彼ってどんな人?」

 勝手にしゃべるなわたしの口!

「どうしてそんなこと聞くの?」

 シャッター音が鳴る。

「いや、小春が選んだ人だったらさぞかし素敵な男の人なんだろうなって思って。いい男の見分け方を教えてもらおうかと思って」

 小春はしばらく無言で写真を撮り続けた。





< 40 / 153 >

この作品をシェア

pagetop