ストロベリームーン

「あらぁ、いい男じゃないお兄さん」

 パート2が隼人の腕に手を這わせる。

 パート1も隼人を見て目をハート型にしたが、すぐに世那に視線を戻す。

 ハート型の目が吊り上がる。

 その場を隼人が上手く取り繕っている間に、世那は孝哉の目配せで店の入口へと急いだ。

 目ざとくそれを見つけたパート1はわざと世那に聞こえるように言った。

「だから小春にのんけなんか好きになるんじゃないわよって言ったのよ」

 その言葉が店を出ようとする世那の背中に突き刺さる。

 振り返らずにそのまま外に出た。

 小春が誰を好きになったって?

 のんけって誰のこと?わたしが小春を傷つけた?

 前のめりになりながら早足で歩く。

 それって、まるで。

 足が止まったかと思うと、かくんと膝が折れてその場にしゃがみこんだ。

 小春に会いたい。

 会いたい、会いたい、会いたい、会いたい。

 なにがなんでも会いたい。

 世那はスマホを取り出すとSNSを開く。

 止まったままの小春にメッセージを打つ。

 小春最近店に来ないけどどうしてる?違う。

 今日小春の友だちが店に来たよ、こんなんじゃない。

 仕事辞めたって聞いたけど、これはもっとダメ。

 小春旅行に、削除。

 小春、今どこ?少し考えてこれも却下。

 小春に会いたい。

 打ったその文字を眺める。

 世那の今1番の本心だった。

「こんなの送れないよね」

 削除しようとして、間違って送信ボタンを押す。

「ああっ」

 尻もちをつく。

 無情にも文字は瞬速で小春の元にまっしぐら。

 世那には手も足も出ない。

「ああっ」

 予想に反し世那の送ったメッセージにすぐに既読マークがついた。

 ずっとSNSは止まったままだったではないか。

 だが世那のメッセージは読まれたまま放っておかれた。

 小春は返信をよこさなかった。


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