ストロベリームーン

「別れて」

 それに気づかない隼人は、すみません、と女の子に誤っている。

「わたしと別れて、隼人くん」

 俯いたまま大声を出した。

 テーブルを拭く女の子の手の動きが一瞬止まる。

「なに言ってんの急に」

「もう無理。カエルになるの」

「か、カエル?」

「だからもう無理だっつーの。やりたいんだったら他の人とやって」

「失礼しましたっ」

 トレーに世那の汚物を乗せた女の子は逃げるようにしてテーブルを離れた。

 隼人は力が抜けたようにすとんと座った。

「な、なんで、理由は?」

 世那は顔を上げまっすぐに隼人を見た。

「他に好きな人ができた」

 隼人は世那から目を逸らし、眉間にしわを作った。

「それってもしかして孝哉さん?」

「へっ」

 変な声が出たが隼人は深刻な表情をしたままだ。

「この前孝哉さんが風邪を引いたとき家まで行ったんだってね、孝哉さん大人の男って感じだから、わから」

「女の人好きになった」

 隼人は驚いた顔をして世那を見た。

「世那ちゃんレズだったの?」

「違う、いや違わないのか、とにかく、隼人くんとはもう付き合えない」

 隼人は鼻の頭を膨らませて息を吸い込んだ。

「その人と付き合うの?結婚とかできないじゃん。そもそも女同時でどうやってやるんだよ、それに」

 隼人はしゃべりながら何かに気づいたのか、一瞬黙り、そして訊いてきた。

「世那ちゃんの好きな人ってカフェドベルジクの人?」

 世那は答えなかった。

 が、隼人は勝手に1人で納得する。

「あの人そうなんだ、そんな感じだよな。あの人に誘われたんだろ。なるほど分かった。世那ちゃんはレズなんかじゃないよ、なぁ、やっぱり今日今から家に行ってもいいだろ、俺とやったらカフェドベルジクなんて忘れるって」

「わたしね」

 世那は隼人をねじ伏せるように言った。



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