その瞳は、嘘をつけない。
「どっちにしろ、少し寝ててもいいぞ。」
そう言って、頭を寝室に向けてくいっと倒す。
この仕草、好きだなぁ。

「大丈夫です。今ので眠気が覚めました。」
「それは残念。」
まだ口元が緩んでいる一之瀬さん。
間違いなく、からかわれてる。

結局その後は、一之瀬さんが持っていたアクション形の映画のDVDを見て、近所の中華料理を食べに行き、夜9時には私の家まで送ってくれた。
車を降りる間際、さよならとありがとうを伝えようした時、ふわっと一瞬だけ、唇にキスをされた。
「嫌・・・だったか?」
あまりに突然で、そして予期できないほどに自然だったた口づけに、恥ずかしさでいっぱいになり顔を俯けた私に、不安そうに尋ねる。
「全然!嫌じゃないです。ただ、びっくりしただけで・・・。」
「良かった。また連絡する。」

それから、お互いに不規則な仕事の合間を縫ってデートを重ねた。
ほとんどが自宅デートや、近所をジョギング。キスどころか手を繋ぐようなこともない、あまりロマンチックとは言えないものだったけど、その方が変な意識をせずにお互いらしさを感じられる気がして楽しかった。
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