もう一度、愛してくれないか
これから始まる会議に関して確認したいことがあったため、専属秘書の伊東を探していた。
秘書室の前を通り、もしかしたら、と思って入ってみる。
すると、PCでデスクワークをしていたスリートップ(彼女たちは「乙ゲー」かもしれない)と豊川が、バッと一斉におれの方を見た。
普段、おれがグループ秘書たちの部屋に入ることはないからびっくりしてるのだろう。
だが……それにしてはえらくダイナミックに振り向いたな。
「……まさか、専務が向こうから飛び込んで来はるとは」
興戸が、まつ毛エクステの瞳をバサバサさせて「ありえへん」という顔をしている。
「飛んで火に入る夏の虫や。ええ機会やないの。直接、本人に訊いてみはったらよろしいやん?」
七条が目を細めて、日本人形のように無機質に笑っている。
「ええっ、あんなこと……だっ、だれが訊くんですかっ⁉︎」
豊川が青ざめた顔で、声を張り上げる。
「興戸、あんたぁ、帰国子女やろ?
大得意の『場の空気』を読まれへんとこ、発揮して訊かはったらどない?日本語が苦手やったら、別に英語で訊かはってもかまへんのやで?」
「やかましわっ、七条。
うちは帰国子女や言うても、インドネシアの日本人学校育ちやから、英語はしゃべられへんの知ってるやろがっ!どうせ、大学もC推薦やっ!
……あぁー腹立つっ‼︎ アンタこそ、無神経な『いけず』言わせたら天下一品やねんから、今こそそれを発揮して訊きぃやっ!」
「アホか。アンタらが押しつけあってどうすんねん……今さら、なにを言うとう?」
鳴尾がスナイパーのような鋭い目線を走らせる。いや、ヒットマンかもしれない。
興戸と七条の頭の上で、豆電球が光った。
「「「豊川、なにしてる⁉︎ 早よ訊けっ‼︎」」」
スリートップの声が揃った。