もう一度、愛してくれないか
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「……毎日、ヒマだろ?昼間、なにしてるんだ?」

夕飯のとき、妻に訊いてみた。

東京生まれの東京育ちの彼女に、大阪の友人はいない。たぶん、おれとしか話をしない日々が続いてるだろう。寂しくはないのだろうか?

「うーん、大抵おうちのことやってるかな?
あ、このマンション周辺を散策してるんだった。この辺、おしゃれでレトロなカフェがいっぱいあって、全然飽きないの」

そうだろう。ここ中崎町は、最近そういう街づくりで注目を集めるエリアだからな。

「……でもねぇ」

そう言って、彼女が少し顔を曇らせたので「どうした?」と顔を覗き込む。

美味(おい)しそうなカフェは結構見つけたけど、歩いて行ける範囲に小さなスーパーしかないの」

さすが、もうすぐ主婦歴二十五年だ。

「天神橋の方まで行けば、大きめのスーパーも日本一長い商店街もあるらしいんだけど。
散策に出かけるのならともかく、大きな荷物を持って歩いて帰ってくるのが大変そうなのよね。
かと言って、わざわざタクシーで行くのもねぇ」

彼女はため息をついて、肩を(すく)める。
おれの愛車のボルボ S80は通勤に使っていた。
そもそも「あんな大きな車、運転しにくい」と言っている。

「バカだな、早く言えよ。休みの日に、車を出してやるからさ……それで、その見つけたおしゃれで美味しいカフェとやらに行ってみようぜ」

すると、ぱっと表情が明るくなり、
「えっ、いいのっ⁉︎ ほんとにっ⁉︎」
子どもみたいな笑顔になる。

「おい、東京のうちでは買い物に行くときに、大地が車を出さないのか?」

今度は「母親」の顔になって、げんなりした表情になる。

「自分で運転して行ってるわよ。大地なんて、当てにならないわ。イヤね、年頃の男の子って」

妻の愛車はフォルクスワーゲン ポロだ。
彼女は「フィ◯ット パンダやロー◯ー ミニのような車がいい!」と言い張っていたのだが、デザインだけで実用性に欠けまくるため、おれと息子とで全力で阻止した。

「夕食を用意して待ってたって、結局LINEで『遅くなる』って連絡したっきり、朝帰りだったりするんですもの。あたしにスマホを持たせたのも、連絡しやすくなるように、っていう自分の都合よ」

なんだとっ⁉︎ 母親といえ、おれのカミさんから、こんな美味(うま)い料理を毎日あたりまえのようにつくってもらっておいて、食わずに朝帰りだとっ⁉︎


……覚えてろよ、大地。
今年の新人研修担当に、さらに発破をかけて、
もっと徹底的にシゴかせてやる。

確か今週末は、研修の総仕上げの「合宿」があったはず……

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