もう一度、愛してくれないか
「あたしがシャンプーもコンディショナーもポンプ式の大っきいヤツ買ってきて、バスルームに置いてるの、気がつかなかった?」
紗香がふふっ、と笑う。
「最初から大阪に居座る気、満々だったんだからね」
「それって、あんなに恥ずかしがってたのに、またおれと一緒に風呂に入ろう、って誘ってんのか?」
おれがからかうと「ちょ…ちょっと、なに言ってんのよっ」と、紗香からバシッと胸を叩かれた。
そして。
「せっかくの二十五年目の銀婚式でしょ?
……だから、もう一度初心に戻って、大阪で、あなたに『嫁』らしいことをしたいな、って」
そう言って、紗香ははにかんだ。
ここ大阪では、やっぱり妻や家内やカミさんよりも「嫁」がしっくりくるな。
「……紗香、初心に戻るんだったら、頼みがあるんだ」
おれは、ぽおっと赤く染まったその頬を、両手ですっぽり包んだ。